ハルビン工程大学への思い
松井喜久雄
60を過ぎた頃から定年を意識し始めたが、「毎日が日曜」となる日々のイメージをどうも容認し難く悶々としていた。62歳のある日、ふとテレビに目をやると孫文が映っていた。その瞬間、中国への語学留学を決めた。何という軽薄さ。それから一年程、僅かばかりの勉強をしてハルビンの中国語学校へ入学した。来てすぐ、心の奥に仕舞い込んでいた、子供の頃のあの懐かしい人と人の温かい心の触れ合いの記憶が蘇った。一年間はあっという間に過ぎた。そして一年置いて、工程大(HEU)の留学である。
インタネットの「中国留学情報」をくまなく見たが、一校だけずば抜けて、条件の良い学校があった。この工程大学である。半信半疑であったが、ハルビン恋しさのあまり、ままよとハルビン工程大学へ飛び込んだ。幸いにして、疑念は晴れた。感心することが多いが、まず宿舎。2人部屋をうたっているが実際には一般の中国人が住む2LDKのアパートに2人で住むので、実質は個室そのものである。もちろん厨房、洗濯機も2人で使える。(前の留学先は1階・2階合わせて40人程が調理器2台、洗濯機4台を使っていた)風呂はバスタブこそ無いもののシャワーは24時間豊富なお湯を供給してくれる。お湯がぬるく、毎日ポットで沸かした湯を何度もバスタブに足してた2年前とは雲泥の差である。これで1人25元/日。安い。前の留学先の45元/日の半分以下である。
次に肝心の学習環境だが、授業時間は私の組(全体の中間クラス)を例にとると週26コマ(一コマ50分)前の留学先で20コマ,課外の授業もいろいろ用意されている。例えば、HSK補講、ユニークな武術、その他、これらが全て無料で受けられる。催物、行事も多種多様で学生を飽きさせない。生徒の寄稿で作られるニュースレター「漢語風」もあります。大学を離れた時、そのニュースレターは一生の良い思い出を作ってくれるだろう。スクリーンを活用した授業など設備も良い。
褒めてばかりだが、留学生のために出来るだけ良好な環境を整えてやろうという、学校側の心使いがひしひしと伝えって来る。
私もその熱意に感じ入って、頑張っているが、正直「しんどい」と思う時もある。そんな時この詩を思い出し、自己を鼓舞している。
「青春とは、真の青春とは若き肉体の中にあるのではなく、
若き精神の中にある。歳を重ねただけでは人は老いない。
夢を失った時、初めて老いる。」
今日も近所のおかず屋のおばちゃんとあれこれ酒の肴の相談をしながら部屋に持ち帰った。暖房の利いた部屋には、キンキンに冷やしたビールが待っている。これを飲んで、もう少しだけ頑張ってみようと思う。